脂質異常症診療のQ&A

Q1 「高脂血症」という診断名は使ってはいけないのですか?

 LDL-C高値やTG高値は動脈硬化性疾患との関連が深い病態ですが、HDL-C低値も動 脈硬化性疾患と非常に関係の強い病態です。「脂質異常症」という診断名が使用される以前は「高脂血症」という診断名がこれらすべての病態に対して使われていましたが、文字通り脂質値が高くなる場合(LDL-C、TG)のみならず、HDL-Cが低くなる場合も含めての診断名が「高脂血症」であったため、違和感がありました。それゆえ2007年の動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に際し、診断名「高脂血症」を「脂質異常症」に改訂することになったわけです。また、このように改訂することにより、低HDL-C 血症も動脈硬化性疾患の危険因子として強く認識していただきたい、との意図も込められました。以上の経緯から高LDL-C 血症や高TG血症といった脂質値が高くなる病態に対しては、「高脂血症」という診断名を使用することは特に問題はありません。

Q2 なぜ脂質異常症の治療が必要なのですか?

 「脂質(血清脂質)」は血液を流れるコレステロールやトリグリセライド(TG)などの脂肪分のことです。脂質異常症はこれらの血液に溶けている脂肪分の代謝に異常がある状態です。脂質の異常だと診断されるのは、高LDL-C 血症、高TG血症、低HDL-C 血症の場合です。これらの脂質代謝の異常が起こると心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患を引き起こします。動脈硬化性疾患は発症すると日常生活に支障をきたすとともに総死亡の約24%を占める重篤な病気です。動脈硬化性疾患は、加齢、性別、家族歴以外に、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症が危険因子となりますが、脂質異常症はこのような動脈硬化の危険因子のなかでも重要な因子であることが、さまざまな実験や疫学研究で示されています。脂質異常症は長年の蓄積により動脈硬化を進行させますが、早期に介入することで心筋梗塞や脳梗塞などの発症の予防ができます。また適切な治療により動脈硬化の改善も期待できます。脂質異常症を指摘された時に症状がなくても、放置することで動脈硬化が進行し、やがて命を脅かす状態になる可能性があります。したがって、脂質異常症を指摘された場合、動脈硬化性疾患を将来発症しないために、早期から治療が必要となります。

Q3 善玉・悪玉コレステロールという表現は患者さんにどう説明すればいいですか?

 コレステロールは体内で種々の重要な働きをしている脂質の一つで、コレステロールという物質そのものに善悪はありません。コレステロールは油であるため、水分である血液の中をそのままの形では流れることができず、水となじみの良いリポ蛋白という蛋白質に含まれて運ばれます。このリポ蛋白にLDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)などがあり、それぞれその中に含まれるコレステロールの量が健康診断などの血液検査でLDLコレステロール、HDLコレステロール濃度として測定されます。多くの疫学調査の結果、LDLに含まれるコレステロールが多い場合には狭心症をはじめとした動脈硬化性疾患の発症が増加し(悪い)、逆にHDLに含まれるコレステロールが多い場合にはその発症が減少する(善い)ことがわかっています。このことからわかりやすく覚えやすいようにLDLコレステロールを“悪玉”コレステロール、HDLコレステロールを“善玉”コレステロールと表現して、ニックネームのように使っています。日常生活において動脈硬化性疾患を予防し、また適切な治療を行うために、“悪玉”なLDLコレステロールを減らし、“善玉”なHDLコレステロールを増加させるように努めましょう。

Q4 TCは測定しなくてよいのですか?

 LDL-Cを求める方法として、Friedewaldの式で計算する方法とLDL-C直接法(以下直接法)があります。TC値は、Friedewaldの式でLDL-Cを計算するために必要です(Q5参照)。Friedewaldの式は、空腹時の採血でTGが400mg/dL 未満の場合に使用できます。食後の採血やTGが400mg/dL 以上の場合は、直接法でLDL-Cを測定するか、non-HDL-Cを求めます。TC値は、non-HDL-C (=TC-HDL-C) の計算にも用いられます。

 TCは、レムナントリポ蛋白が増加するⅢ型高脂血症を見逃さないためにも重要です。TC(あるいはnon-HDL-C)とTGの両者が増加する脂質異常症の大部分は、VLDLとLDLとが増加するⅡb 型高脂血症です。しかし、この中にⅢ型高脂血症が隠れている可能性があります。両者の鑑別には、リポ蛋白分画やアポリポ蛋白の測定が有用です(Q40参照)。

Q5 LDL-C の測定法に計算式と直接法がありますがどう使い分ければよいですか? 違いと使い方を教えてください。

 以前から、臨床では計算式(Friedewaldの式)でLDL-Cを求めていました。この式では、TC(mg/dL)からHDL-C(mg/dL)を引き、さらにTG(mg/dL)を5で割った値を引いてLDL-Cを計算します。通常は、VLDLに含まれるコレステロールが、TGの5分の1(重量比)に相当するからです。この式は、TGが低い時は正確ですが、TGが高くなるにつれてLDL-Cが実際より低く算定されます。なぜなら、TGが著明に高いとVLDLやカイロミクロンのコレステロールがTGの5分の1よりも少なくなるからです。この式が適用できるのは、TGが400mg/dL 未満とされていますが、TGが200mg/dLを超えるあたりから徐々に誤差が大きくなります。しかし、これまでの多くの疫学研究や介入試験のエビデンスが、Friedewaldの式で求めたLDL-Cの結果から導かれている点を忘れてはなりません。

 一方、最近用いられるのが、「LDL-C直接法(またはホモジニアス法)」です。直接法はわが国で開発され、界面活性剤などでLDL 以外のリポ蛋白質を破壊するか、逆にこれらを保護することにより、LDLに含まれるコレステロールだけを測定します。直接法の特徴は、再現性が良く、空腹時でも食後でも同様に正確に測定できる点です。ただし、直接法は、LDLの組成が著しく正常と異なる場合に使用してはいけません。例えば、①著明な低LDL-C 血症(<20mg/dL)、②著明な高TG血症(>1,000mg/dL)、③著明な高HDL-C血症(>120mg/dL:LDLの組成も異常となるため)、④胆汁うっ滞性肝障害などがこれに相当します。

Q6 LDL-C 直接法は不正確だと聞きましたが本当ですか?

 臨床検査分野では、米国疾病管理センター(CDC)を中心としたCholesterolReference Method Laboratory Network (CRMLN)が、世界的なLDL-Cの標準化プログラムを提供しています。LDLは、病態により組成や性質が変化します。LDL-Cは化学的な純物質がないため、正しい値を表示する絶対的な標準物質が存在しません。さらに、どのような病態でもLDL-Cを正確に測定できる絶対的な基準測定法もありません。そこで、CRMLNは、超遠心法と沈殿法を組み合わせ、コレステロールをAbell-Kendall 法(化学的定量法)で測定するベータ定量(BQ:beta-quantifi cation)法をLDL-Cの基準測定法にしています。BQ法は、多くの血液量・時間・熟練した手技を必要とするため、一般の検査室で行うことはできません。

 直接法には、原理の異なる複数の試薬があります。以前は性能が不良な試薬があり、2012年のガイドラインでは直接法の使用を認めませんでした。わが国においてBQ法で測定したLDL-C値と直接法で測定したLDL-C値を比較した多施設共同試験が行われ、性能不良な試薬は改良や販売中止などの対応がされました。現在は、正確性が検証された試薬だけが使用されています。

Q7 なぜ脂質異常症の診断基準にnon-HDL-C が追加されたのですか?

 脂質異常症の診断は空腹時採血で行われ、LDL-CはFriedewaldの式(F式:TCHDL-C-TG/5)を用いて算出することを基本としますが、食後採血やTGが400mg/dL以上の場合はF式を用いることはできませんので、LDL-C直接法でLDL-Cを測定するか、non-HDL-C(TC-HDL-C)を用います。また、non-HDL-Cは冠動脈疾患の発症・死亡を予測しうる有用な指標であり、170mg/dL 以上をnon-HDL-Cのスクリーニング基準としています。さらに、他の危険因子の重複の影響を慎重に判断すべき境界域としては150 ~169mg/dLとしています。リスク管理目標としても、先ずLDL-Cの目標の達成を目指し、次にnon-HDL-Cの目標達成を目指します。このように、non-HDL-Cは、LDL-Cの次に達成すべき治療目標なので、脂質異常症の診断基準に追加されました。

 なお、LDL-Cに+30mg/dLがnon-HDL-Cの値に相当しますが、高TG血症を伴わない場合には+30mg/dLよりは小さくなること、TGが600mg/dLを超えると、non-HDL-C評価の正確性が担保されないことに留意してください。

Q8 HDLは量よりも質が大切だと聞いたことがありますが、どういうことか教えてください。

 HDL-Cは冠動脈疾患の負の危険因子とされてきました。しかし、この考え方と矛盾する事例が複数知られています。例えば、HDLの代謝に関連するSR-BIやCETPの機能低下は高HDL-C 血症を呈しますが、冠動脈疾患は増加します。アポA-I Milanoと呼ばれる変異は低HDL 血症を呈しますが、冠動脈疾患は減少します。LCAT欠損症ではHDL-Cが著減しますが、冠動脈疾患が増加するわけではありません。一方、マクロファージのコレステロールを引き抜くHDLの能力が低いと冠動脈疾患が増加することがわかってきました。SR-BIやCETPの機能低下で増加したHDLはこの機能が低下しています。これらのことから、HDLの量もある程度大切ですが、質がより重要だと現在では考えられています。

Q9 TGは空腹時と非空腹時のどちらを使うべきですか?

 基本的に空腹時のTGが150mg/dLを超える状態を高TG血症と定義し、治療の必要性 を検討します。治療目標値も基本的に空腹時のTGが150mg/dL 未満を目指します。一方、非空腹時のTGが高いほど、急性心筋梗塞、狭心症、突然心臓死のリスクが増加するというわが国の成績や、急性心筋梗塞、冠動脈疾患、虚血性脳卒中、総死亡のリスクが増大するという海外の成績もあります。今後、非空腹時のTG値を用いたスクリーニング基準値や治療目標値が提唱されることがあるかもしれません。

Q10 食後高脂血症の評価法について教えてください。

 一般的に、血液検査は10 時間以上絶食後の「早朝空腹時」に行います。なぜなら、TGが食事に伴って増加するため、食後の採血では測定値が食事内容や食後時間によって大きく変動し、脂質異常症の診断が困難になるからです。しかし、ヒトに対するさまざまな疫学研究や脂肪負荷試験の結果、食後に血清TGが異常に増加し、そのピークが遅延・遷延する集団が発見されました。これは食後高脂血症(あるいは食後高TG 血症)と呼ばれ、動脈硬化性疾患との関連性が指摘されています。わが国の健康診断での検討において、食後(非空腹時)のTGの増加が、心血管疾患の増加と相関することが示されています(図A)。

 食後には、TGを多く含むレムナントリポ蛋白が増加します。レムナントリポ蛋白は、LDL粒子と同様に、動脈硬化プラークを形成して動脈硬化を惹起します。小腸由来のレムナントであるカイロミクロンレムナントには、1粒子に1個のアポリポ蛋白B-48が含まれます。アポリポ蛋白B-48の空腹時濃度は極めて少ないのですが、冠動脈狭窄を有する群で有意に高いことが示されています(図B)。レムナントの評価には、レムナントコレステロール(RLP-CあるいはRemL-C)の測定も可能です。また、非空腹時におけるnon-HDLC(=TC-HDL-C)は、LDL-Cとレムナントコレステロールのどちらの上昇によっても増加します。LDL-Cが正常範囲であるのにnon-HDL-Cが増加している症例では注意が必要です。食後高脂血症の治療では、適正カロリーの摂取と脂質制限が重要です。そのほかに、食物繊維やn-3 系多価不飽和脂肪酸(魚類に含まれる)の摂取などの食習慣の改善、さらに薬剤治療として、イコサペント酸エチルとオメガ-3脂肪酸エチル、エゼチミブ、スタチン、フィブラート系薬の内服が有効です。

Q11 吹田スコアでは、70 歳から74 歳の男性は多くの人が高リスクになってしまいますが、脂質低下治療は必要ですか?

 加齢は動脈硬化性疾患の最も大きな危険因子と考えられています。今回のガイドラインにおける吹田スコアにおいても、年齢が70歳から74歳の場合、例えば男性で、喫煙なく、Ⅰ度高血圧があり、HDL-Cが55mg/dL、LDL-Cが150mg/dLの場合、耐糖能異常や家族歴がなくても、吹田スコアは59点となり、向こう10年間の冠動脈発症率は約11%となり、高リスクと分類されます。女性でも多くの方は中リスク以上に分類されますので、LDL-Cの管理目標は男性120mg/dL 未満、女性140mg/dL 未満となります。このようなケースで脂質異常症の治療をどうすべきかについては、いろいろな考え方があります。ガイドラインにおける脂質管理目標値を努力目標と位置づけ個別に対応することも一つの考え方です。動脈硬化性疾患の予防の基本は生活習慣の改善であり、食事療法、運動療法を行うことになりますが、他の合併症や予後などを考えて、薬物治療を行うかどうかを決定することが重要です。また高齢者においては個体差が大きく、厳格な食事療法が低栄養やフレイル、サルコペニアの原因となることもあり、注意が必要です。運動療法についてもそれぞれの身体機能に応じた指導が必要と思われます。

Q12 吹田スコアにはTG 値が含まれていませんが、高TG 血症は冠動脈疾患のリスクではないのですか?

 多くのコホート試験でTGは冠動脈疾患の危険因子と報告されています。一方、単相関では認められていた冠動脈疾患との関連が、多変量解析をすると消えてしまうという試験も少なからず存在することも事実です。TGとHDL-Cが逆相関関係にあるためです。吹田試験もそうした研究の一つということになります。一方、大規模なコホート研究やメタ解析では高TG血症は冠動脈疾患の独立した危険因子であることが確認されています。さらに、血清脂質値と冠動脈疾患との関連性について遺伝子多型を利用して調べるメンデルランダム化解析という手法でも、LDL-CとTGは真の危険因子として残り、HDL-Cは単なるバイオマーカーと結論づけられています。通常のコホート研究では多変量解析で真の危険因子であるTGが消えて、単なるバイオマーカーであるHDL-Cが残る理由は十分には理解されていませんが、HDL-Cに比してTGの変動性が大きいことも理由の一つと考えられます。

Q13 リスクスコアを計算する時に治療中の場合はどうなりますか?

 吹田スコアは、脂質異常症と高血圧に対する服薬治療中の情報は特に考慮して作成されていません。ただし、追跡開始時に脳卒中、心筋梗塞の既往がある方は分析から除かれているため、一次予防の管理目標値の設定に用いられています。吹田スコアのベースライン調査時(1989 ~1994 年)はわが国へのスタチン登場直後であり、まだ脂質低下療法は一般的でありませんでした(治療中だったのは吹田研究参加者の2%以下)。したがって既にコレステロール低下薬服用中の場合は、なるべく治療開始前のLDL-C値に基づいてリスクスコアを用いることが望ましいといえます。

 一方、血圧については、吹田研究のベースライン調査には10 ~ 15% 程度の降圧剤服用中の人が含まれています。治療中で収縮期血圧が140mmHgになった人と非治療で140mmHgの人を比べると、一般的には前者のほうが高血圧の罹病歴も長く非薬物的にコントロールができないため服薬に至ったと考えるのが自然です。したがって同じ血圧レベルの場合は治療中のほうが非治療中よりも絶対リスクは高いと考えられます。実際にフラミンガムスコアでは治療中の場合、同じ血圧レベルでもスコアに1ポイントを加算するようになっています。しかしながら日本人集団では、血圧レベルが同じであれば、服薬によって今回の冠動脈疾患の絶対リスクの区分(低、中、高)が変更されるほどの影響はないこともわかっています。したがって治療中でもそのままリスクスコアを用いて構いませんが、少しだけリスクが高い可能性を考慮して血圧管理を厳重に行ってください。

 なおリスクスコアは、あくまでも観察研究からの予測値ですので危険因子改善後の絶対リスクがスコアで計算されるレベルまで下がるわけではありません。治療効果はあくまで臨床試験の結果を参照すべきです。

Q14 頸動脈エコーにおける評価について、その検査頻度、異常所見を認めた際の対応、LDL-C 管理目標などについて教えてください。

 頸動脈エコーは、動脈硬化度を簡便かつ非侵襲的に評価することができ、動脈硬化を疑う患者さんに広く推奨される検査法です。また、頭蓋内動脈や冠動脈の動脈硬化性変化を予測する検査としても臨床応用されています。

 頸動脈エコーで行う動脈硬化の評価項目としては、内中膜厚(IMT:Intima-Media Thickness)とプラーク(1.1mm以上の限局性肥厚性病変)の有無、狭窄の有無などがあります。IMTは年齢とともに増厚することがわかっており、プラークの評価としては、1.5mmを超えるとプラーク厚、性状評価を行います。狭窄度については、収縮期最大血流速度(PSV:Peak Systolic Velocity)を計測し、200 ~230cm/s以上で有意狭窄ありと判断します。

 動脈硬化は一般的には急速に進行するものではありませんので、異常がない場合は1年から2年に一回程度の検査が妥当な頻度と思われます。ただし、狭窄病変や可動性プラーク、潰瘍病変、低輝度プラークなどを観察した場合は、3 ~ 6か月といった、より短期間での再検査が必要となります。

 LDL-C値との関連については、頸動脈エコーでのプラークの存在やIMTの肥厚の患者を対象にして心血管イベント発症の前向き研究のデータはまだ十分な発表がなされていないのが実情です。そのため、IMT肥厚やプラークが存在するからといってこれらの患者さんを高リスク病態と設定することができません。冠動脈疾患予防からみたLDL-C管理目標設定のためのフローチャート、リスク区分別脂質管理目標値に合わせて数値設定してください。

Q15 脂質異常症の診断と治療でLDL-C 値による診断治療の評価を重視するのはどうしてですか?

 動脈硬化巣のプラーク内部にはコレステロールが沈着し、このコレステロールはLDLに由来するものであることが判明しています。また血液中のLDL-Cを低下させることで動脈硬化性疾患が減少することも確認されています。このように、さまざまなリポ蛋白のうちLDLに含まれるコレステロールこそが、動脈硬化と密接に関係するのです。日本人には、HDL-Cが高値の人も少なくないため、TCが高くてもLDL-Cは正常である人がしばしば認められます。したがって動脈硬化を的確に予防するためには、TCよりもLDL-Cに注目する必要があります。動脈硬化のリスクが高く、真に治療を必要とする人たちを正確に識別するためにも、LDL-Cに注目する必要があるわけです。

Q16 コレステロール値を下げすぎてはいけないのですか? コレステロールが高い方が長生きだと聞きましたが本当ですか?

 コレステロールが低い方ががんや脳卒中(特に脳出血)の死亡率が高いという結果が、時々、ニュースなどで取り上げられることがあります。主な論調は、日本人ではコレステロールが低い方が死亡率が高く、コレステロールが高い方がむしろ長生きだというものが多いようです。実は、外国の研究でもコレステロールが低いといろいろな病気の死亡率が高くなることが20 年以上前から報告されていて、これは別に日本人特有の現象ではありません。そしてその多くは追跡調査における「見かけ上の関係」に過ぎないという結論になっています。

 例えばがんと低コレステロールの関連については、採血した時に本人が気がつかないうちにかかっているがんの影響で、コレステロールが低くなっている可能性が指摘されています。つまり低コレステロール血症でがんになるのではなく、がんがあるからコレステロールが下がっているわけです。また原発性肝臓がんの前病変として肝硬変があることはよく知られていますが、肝硬変ではコレステロールの合成低下を伴うため、あたかも低コレステロール血症が原因で肝臓がんになったように見えてしまいます。さらに低コレステロールと肺がんの関連は喫煙者でのみで観察されることが多く、これも喫煙に伴う慢性閉塞性肺疾患のためにコレステロールが低下していると考えられています。

 一方、スタチンなど薬剤を用いてコレステロールを下げた場合にがんが増えたという結果は報告されていません。しかしながら、投薬後、予想よりもコレステロール値の低下が非常に大きい場合などは、がんなど消耗性疾患が隠れている可能性を考慮して検査する必要があります。

 また、脳出血と低コレステロール血症については、低栄養で血管が脆弱になっていることが原因と考えられてきました。しかしながら高コレステロール血症の患者さんにおいて薬剤でコレステロール値を下げた場合に脳出血が増加するという明らかなエビデンスはなく、通常の治療の範囲内では心配しなくて良いと思われます。仮に低コレステロール血症が脳出血の危険因子だとしても、正常血圧者の脳出血のリスクは非常に小さいため、血圧管理をきちんと行えば特に心配はないと考えられます。

 プライマリケアの現場では、コレステロールが低いことではなく、低くなっていくこと(これはがんなどコレステロールが低下していく病気の存在を疑わせる)に留意する、そして血圧の管理をきちんと行うことが現実的な対処法です。

Q17 トランス型の脂肪酸は摂取しないほうがよいのですか?またどのような食品に含まれているのですか?

 トランス型の脂肪酸は、トランス型二重結合を持つ不飽和脂肪酸で、シス型の脂肪酸が主体である天然植物油にはほとんど含まれず、水素を添加して人工的に硬化するマーガリン、ショートニングなどに多く含まれます。

 トランス型の脂肪酸摂取はLDL-Cを増加させHDL-Cを低下させること、Lp(a)を増加させること、血管内皮機能を障害させることや、インスリン抵抗性を悪化させることが報告されており、動脈硬化性疾患の発症リスクを増大させることが示されています。そのため、欧米諸国をはじめアジア諸国でも食品中のトランス型の脂肪酸含有量の表示が義務づけられ、その摂取制限が推奨されています。動脈硬化予防の面から工業製品由来のトランス型脂肪酸の摂取はゼロにすることが望まれます。

Q18 炭水化物と糖質の違いはなんですか?

 炭水化物は、単糖類(ブドウ糖、果糖など)、オリゴ糖類(蔗糖などの二糖類、少糖類)、多糖類(デンプン、食物繊維など)、誘導糖類(糖アルコールなど)の総称です。糖質は炭水化物のうち食物繊維を除いたものを指します。糖質にはブドウ糖、果糖、蔗糖、乳糖、麦芽糖、デンプンやグリコーゲンなどがあり、主にエネルギー源として利用されます。この中で果糖、蔗糖は食後の高脂血症を悪化させることが知られており、高TG 血症がある場合には特に注意が必要です。 食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり、特に水溶性食物繊維にはコレステロールの吸収抑制効果があるといわれています。日本食品標準成分表2015(炭水化物成分表編)には食品中の各糖質量の他に食物繊維量(水溶性食物繊維、不溶性食物繊維および総量)が示されています。

Q19 食事から摂取する脂肪酸にはどのような種類がありますか?

 脂肪酸は、二重結合を含まない飽和脂肪酸(SFA:saturated fatty acid)、二重結合が1個ある一価不飽和脂肪酸(MUFA:mono-unsaturated fatty acid)、二重結合を2個以上もつ多価不飽和脂肪酸(PUFA:poly-unsaturated fatty acid)に大別されます。さらに、PUFAは、二重結合がメチル基末端の炭素原子から数えて3番目の炭素にあるn-3系PUFAと、6番目の炭素にあるn-6系PUFAに分類されます。

 動物性脂肪に多く含まれるSFAはLDL-Cの増加や冠動脈疾患の発症率を増加させるため、過剰摂取を控えることが有用です。

 逆にオリーブ油やサフラワー油などに多く含まれるMUFA摂取の増加は血清脂質を改善し、冠動脈疾患の発症を抑制することが示されています。また、SFAをPUFAの多い植物油に置き換えると血清脂質が改善すること、特に、魚油に多く含まれるn-3系PUFAの摂取が、血清脂質改善に加え、血圧低下、抗血栓作用、血管内皮機能の改善などをもたらし、冠動脈疾患の発症を抑制することが報告されています。n-6系PUFA のリノール酸とアラキドン酸、n-3系PUFAのαリノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は必須脂肪酸であり、摂取不足によって欠乏症を呈します。

Q20 脂質異常症の食事では、植物油は何を選べばよいですか?

 植物油のうち、やし油とパーム核油は飽和脂肪酸が約80%以上を占めています。オリーブ油と高オレイン酸紅花油は一価不飽和脂肪酸が77%を占め、多価不飽和脂肪酸が7~15%と少ない油です。綿実油、大豆油、とうもろこし油は、n-6系多価不飽和脂肪酸が50~60%を占めます。1日の許容量のなかで、味や料理の種類に合わせていろいろな植物油を使うことができます。新鮮な状態で摂取するために、少量で購入しましょう。

Q21 動脈硬化とアルコール摂取の関連を教えてください。

 世界の疫学調査から得られている結論は、少量ないしは中等度の飲酒量までは、そのアルコール飲料の種類を問わず、心筋梗塞、狭心症等の冠動脈疾患の危険因子にはならず、むしろ、もともと飲酒しない人よりもリスクが低下するとされています。ただし、少量ないしは中等度の飲酒量は、1日あたりの平均が、男性ならビール1本まで、日本酒なら1合まで、ワインならグラス2杯までです。女性はそれよりも少ない量です。

 冠動脈疾患同様に、少量飲酒で血栓性脳梗塞には予防的に作用するとの外国での成績がありますが、日本人に多いラクナ梗塞には当てはまらない可能性が大きいので、注意が必要です。多量飲酒になれば血清TGや血圧は上昇し、脳卒中をはじめとした循環器疾患の発症危険度が増すばかりでなく、がん、肝硬変の発症も増加します。少量飲酒が冠動脈疾患に予防的に作用するとはいえ、飲酒習慣のない人に飲酒を勧めることはよくありません。

Q22 コレステロール摂取基準についてはどのように指導すべきですか?

 2015年2月にアメリカ農務省と保健福祉省から,食事でのコレステロール摂取制限は必要ないとの発表があり、また、日本でも厚生労働省による「日本人の食事摂取基準2015年版」ではコレステロール摂取の上限値がなくなりました。これは、摂取したコレステロールが血液中のコレステロール値に与える影響には個人差が大きく、どれだけまで大丈夫という数字が出せないためです。したがってコレステロールはどれだけとっても大丈夫という意味ではありません。現在、高血圧や糖尿病、喫煙など他の動脈硬化性疾患の危険因子を持っておらず、LDL-Cが高値でない場合は、現在の食事内容でコレステロールを制限する必要はありません。しかしながら、飽和脂肪酸はLDL-C値を増やすことが知られています。コレステロールを多く含む動物性食品は同時に飽和脂肪酸も多く含みますので、このような動物性食品を摂りすぎないことが推奨されます。上記のアメリカの発表でも、日本人の食事摂取基準でも飽和脂肪酸の制限を設けています。LDL-Cが高値の場合や糖尿病や冠動脈疾患合併などのハイリスク病態ではこれまで通り、食事でのコレステロール摂取制限が必要であり、同時に飽和脂肪酸についても摂取制限が必要です。コレステロール摂取量の制限値を設定することは難しいものの、コレステロール200mg/日未満と飽和脂肪酸7 %E 未満にすることによりLDL-C低下効果が期待できることから、高LDL-C 血症がある場合、摂取コレステロールを200mg/日未満にすることが推奨されています。(日本動脈硬化学会2015 年5月「コレステロール摂取量に関する声明」、日本動脈硬化学会編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」67頁 参照)

Q23 LDL-C 高値とTG 高値とで、食事療法に違いはありますか?

 LDL-C高値の場合には、コレステロールや飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取を減らすことが有効です。具体的には動物性脂肪や乳製品、臓物類、卵類などを減らすようにします。TG高値(空腹時TGが500mg/dL 以上)でカイロミクロンの著明な増加を伴う場合には脂質制限が有効ですが、VLDLやレムナントの増加を伴う場合には脂質摂取量の適正化に加えて、糖質とアルコールの制限も有効です。野菜や海藻、大豆製品などの摂取はいずれにも有効です。

Q24 筋力トレーニングは脂質異常症の予防や治療に効果があるのですか?

 運動療法には、歩行やジョギングなどの有酸素能力を高める「有酸素運動」と、筋力トレーニングなどの筋力を増強させたり筋量を増やす「レジスタンス運動」があります。これまでに報告されている運動と脂質代謝の改善に関する報告の多くは有酸素運動に関するものです。しかしながら近年、レジスタンス運動と脂質代謝の関係を調査した研究が増えつつあり、有酸素運動だけでなくレジスタンス運動も脂質代謝を改善するといった報告がみられます。特に筋量が低下している高齢者の場合には、有酸素運動に加えて、ウエイトトレーニングやスクワット・階段昇り・ベンチステップ運動などの自分の体重を負荷にしたレジスタンス運動を併用することが脂質代謝を改善する効果があります。レジスタンス運動の実施上の注意点としては、レジスタンス運動は有酸素運動と比較して筋骨格系障害が発生しやすい傾向にあります。したがって、運動療法の実施にあたっては潜在的な骨関節疾患の存在に配慮し、個人の体力や運動歴および現在の身体活動状況に応じた指導を行うことが必要です。

Q25 激しい運動や強度の弱い、例えばウォーキングのような運動でも脂質異常症の予防や治療に効果がありますか?

 運動量は「運動強度(メッツ)」と「実施時間」の積で表すことができます。「激しい運動」は短い時間で運動量を増やせるというメリットがあります。一方で、筋骨格系障害だけでなく内科的な障害を発生させる可能性を高めます。また、脂質代謝の改善には有酸素運動が有効であることが報告されていますが、「激しい運動」は体力が低い人には無酸素運動になってしまい、脂質代謝の改善効果が得られなくなる可能性があります。このため、運動強度の上限としては、血中乳酸の蓄積がなく、血圧上昇が軽度な運動強度である「話しながら継続して実施できる運動強度」を目安にすると、安全で効果的な運動が実施できると考えられます。

 通常速度のウォーキング(=歩行)は、運動強度をメッツで表すと3メッツ(安静代謝の3倍)であり、「強度の弱い運動」ではなく「中強度」の運動に分類されます。動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおける運動療法指針では、運動療法における運動強度の目標を「中強度以上」としており、通常速度以上のウォーキングであれば脂質代謝を改善する可能性が高いと考えられます。ただ、運動強度は相対的なもので、その人の体力(有酸素能力)に依存します。このため、体力が低い人においては通常速度のウォーキングを目標に、体力の高い人においては速歩やスロージョギングなどのやや強度の高い運動を目標にすればよいと考えられます。

Q26 スタチンの使い分けはありますか?

 スタチンはコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA 還元酵素を阻害し、肝臓のLDL 受容体の数を増やして、血液中のLDL-Cを低下させる薬です。現在わが国ではプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンが使用されています。

 これまでのスタチンを用いた国内外の大規模臨床介入試験や断面調査研究の結果から、いずれのスタチンを選択しても長期の安全性には差がないことが明らかになっています。したがって、それぞれ通常用量で得られるLDL-C低下作用を基準にスタチンを選択します。

 目標とするLDL-C管理値を達成するためには、どの程度(何%)低下させる必要があるかを考えて薬剤選択することが重要です。特に、FH、急性冠症候群などリスクが高い場合にはLDL-C低下効果が大きいスタチンが適応になります。シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチンは薬剤代謝酵素(CYP)で代謝されるため薬剤相互作用に注意する必要があります。また、大量のグレープフルーツジュース摂取による相互作用も報告されているため注意が必要です。特に薬剤の代謝能が低下し、多剤服用する機会が多い高齢者においては十分な監視と注意が必要です。

Q27 スタチン以外でLDL-Cを低下させる薬剤の位置づけを教えてください。

 LDL-C低下効果、動脈硬化性疾患を予防するエビデンスが確立していることなどから、スタチンがLDL-C低下療法の第一選択薬となります。しかし、高用量のスタチンを使用してもLDL-Cが管理目標値まで低下しない場合には、作用機序の異なる小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、陰イオン交換樹脂、プロブコール、PCSK9 阻害薬などを併用することで、LDL-Cをさらに低下させることができます。筋肉痛や横紋筋融解症などの副作用でスタチンを使用できない、または低用量にとどめざるを得ない場合にも、こうした薬剤を使用または併用することでLDL-Cを管理目標値まで低下させることができます。スタチン以外の薬物では、動脈硬化性疾患予防のエビデンスが不足していましたが、近年、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬やPCSK9 阻害薬をスタチンと併用することで、ハイリスク患者の心血管イベントを減少させることが海外で報告され、スタチン以外の薬物でLDL-Cを低下させても動脈硬化性疾患が予防できるエビデンスが揃いつつあります。

Q28 スタチンによる新規糖尿病発症に関しては注意をする必要がありますか?

 スタチンを用いた大規模臨床試験のメタ解析の結果(2010年Lancet)、スタチン治療により糖尿病の新規発症が9%増加すること、そのリスクにはスタチンの種類間で違いは認めないことが示されました。さらに、別のメタ解析(2011年J Am Coll Cardiol)では、スタチン用量依存性に糖尿病の新規発症が増加することが示されました。

 しかしながら、これらの解析において、エンドポイントである糖尿病発症の判断が主治医によるものであるという問題点も指摘されています。また、スタチン用量依存性に糖尿病発症が増加するわけですが、日本で用いられている用量は海外と比べて少量であり、日本においてはスタチンの糖尿病発症への影響はそれほど大きくないことも予想されます。

 近年日本で行われたJ-PREDICT 試験(耐糖能異常患者におけるピタバスタチンによる新規糖尿病発症の有無を検証)では、ピタバスタチンでの糖尿病新規発症は増加しなかったことが、学会発表レベルですが報告されています。

 このようなスタチンによる新規糖尿病発症に関しては、高齢者や耐糖能異常、メタボリックシンドロームといった、元来糖尿病発症リスクの高いものにおける増加であることが指摘されており、そのような患者さんに対してスタチンを投与する際には注意して経過観察する必要があるといえます。

 なお、日本でのスタチン内服下での高血糖高浸透圧症候群発症や糖尿病ケトアシドーシスの自発報告は、すべてのスタチンを合わせて3症例ありますが、これらは既に糖尿病加療中であった2症例と緩徐進行1型糖尿病が示唆される1症例でした。

 255人の患者を4 年間スタチンで治療すると、1人の糖尿病患者が増えます(上記2010年Lancet誌のメタ解析)が、同じ期間に5.4件の心血管イベントが低下することが推測されます。したがって、糖尿病の新規発症を恐れるあまり、スタチンの投与を行わないことは問題です。リスク評価を行って、かつ糖尿病発症には気を付けながら、必要に応じてスタチンによる治療を行うべきと考えてよいでしょう。

Q29 スタチン投与中の筋肉痛やCK上昇に対してどのように対処すべきですか?

 スタチン投与による筋症状は10%前後と比較的よく認められますが、その中で注意すべき重篤な副作用として横紋筋融解症があります。2015年のEuropean AtherosclerosisSociety(EAS)の専門委員会では、筋症状があり、CKが正常上限値の10倍以上を筋炎、正常上限値の40倍以上を横紋筋融解症と定義しています。CKが正常上限値の10倍以上となるのは1/1000 ~ 10000人・年と少ないものの、特に腎機能低下のある患者でフィブラートと併用した場合などには発症頻度が増加します。甲状腺機能低下もCK 上昇の危険因子です。スタチン投与中に筋肉痛や筋力低下を訴えた際には、褐色尿の有無を問診し、可能であればCKを測定して著明な上昇がないかを確認します。無症状でもCKは正常上限値の3 ~ 10倍程度上昇していることがあります。正常上限値の4倍程度までの上昇ではスタチンの必要性を見直した上で投与を継続し、経過観察をすることもあります。正常上限値の4倍以上ではスタチンの中止が原則ですが、冠動脈疾患の高リスク患者では経過観察しながら投与を継続することもあります。CKが正常上限値の10倍以上であればスタチンを中止します。投与の必要性の高い患者では、中止後一定期間をおいてCKが低下した後に、CKをモニターしながら別のスタチンを少量で再開することは可能です。中止後もCK上昇が続く場合は、筋疾患などの可能性を考慮して専門家にコンサルトが必要です。横紋筋融解症をきたした場合には、十分な補液と腎機能についての経過観察が必要となります。

Q30 LDL-Cが180mg/dLと高値を指摘された40歳男性についてです。狭心症や脳梗塞の既往もなく、健診で他には異常を指摘されず、喫煙もありませんが、薬物療法は必要ですか?

 LDL-C値が180mg/dL 以上であるため、まずはFHを念頭に置く必要があります。ガイドラインの診断基準に従い、高LDL-C 血症および早発性冠動脈疾患の家族歴を問診し、アキレス腱肥厚をはじめとする腱黄色腫や角膜輪の存在を確かめます。アキレス腱肥厚の判定が難しい場合にはX 線撮影を行います。FHと診断されれば、一次予防でも生活習慣指導と並行して薬物療法を開始し、LDL-Cの目標は100mg/dL 未満とします。FHの診断基準を満たさない場合は、一次予防の比較的若い患者さんであることから、まずは食事・運動療法を開始します。薬物療法の必要性については、絶対リスクも考慮して患者さんと相談します。動脈硬化学会の脂質管理目標値設定ツールアプリを用いて、仮に血圧を120/70mmHg、HDL-Cを50mg/dLとした場合、10年以内の冠動脈疾患発症確率は1.6%となり、最もリスクの少ない人と比べて1.1ポイント高いという結果になります。直ちに薬物療法を開始する必要性は少ないですが、頸動脈エコーのプラークなど動脈硬化所見を認めたり、 FHの可能性が否定できない場合は、FH 疑い症例として生涯リスクを考えて薬物療法を開始してもよいでしょう。

Q31 LDL-CとTG がともに高値を示す際の薬物療法を教えてください。

 LDL-CとTGがともに高値を示した場合でも、LDL-Cの管理をまず考えます(動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド62ページ9-4.3「薬物療法の実際」参照)。生活習慣の改善を十分に行ったにもかかわらず、リスクに応じたLDL-Cの管理目標を達成できない場合には、第一選択薬としてスタチンを用いた薬物療法を考慮します。副作用などの理由でスタチン不耐の場合にはエゼチミブやレジンなどの薬剤を考慮します。LDL-Cの管理目標値を達成したにもかかわらず、non-HDL-Cの管理目標値を達成していない場合には、non-HDL-Cを二次目標として、スタチン増量や併用を考慮します。ただし、スタチンとフィブラート系薬を併用すると横紋筋融解症の危険性が増えることから、スタチンとフィブラート系薬の併用は慎重投与、腎機能低下がある場合は原則併用禁忌とされています。選択的PPARαモジュレーターはスタチンとの薬物間相互作用が少なく、また腎排泄性ではないため、スタチンとの併用はフィブラート系に比べて安全性が高いと考えられていますが、中等度以上の腎機能障害のある患者への投与は禁忌です。スタチンとエゼチミブまたはn-3系多価不飽和脂肪酸(イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル)の併用も有効です。

Q32 フィブラート系薬とスタチンとは併用しても大丈夫ですか?

 一部のフィブラート系薬とスタチンの組み合わせは、スタチンの血中濃度の増加を招き、その結果、横紋筋融解症などの重篤な副作用を招来する事例がありました。特に、ジェムフィブロジルとセリバスタチンの併用で多数の死亡例を経験したため、セリバスタチンは発売中止となり、ジェムフィブロジルもわが国では発売されていません。ジェムフィブロジル以外のフィブラート系薬とスタチンとの併用にも腎機能低下時には原則併用禁忌という文言が添付文書に記載されています。しかし、わが国で広く処方されてきたベザフィブラートやフェノフィブラートはジェムフィブロジルとは異なる薬物間相互作用を示します。フェノフィブラートとシンバスタチンとを併用した海外の大規模臨床試験ACCORD-LIPIDでも、横紋筋融解症の増加は報告されておらず、腎機能に問題がなければ、これら2剤の併用は安全と考えられます。新たに認可されたペマフィブラートも現在わが国で利用されているスタチンとの間の薬物間相互作用が少なく、腎排泄ではないため、フェノフィブラートに比べスタチンとの併用の安全性が高いと考えられます。しかし、添付文書には、腎機能低下例ではスタチンとの併用は原則禁忌と記載されています。腎機能正常例には慎重投与可能ということでもあります。

Q33 PCSK9 阻害薬はどのような症例に使用すべきですか?

 現在わが国ではエボロクマブ(レパーサ® )およびアリロクマブ(プラルエント®)(※)2種類のPCSK9 阻害薬が存在しており、高LDL-C 血症患者において強力なLDL-C低下作用を有する治療薬として登場しています。これらは分子抗体医薬であり、皮下注射( 2週に1回あるいは4週に1回)によりその効力を発揮します。すでにスタチンを高用量使用し、さらにエゼチミブを併用しているような患者さんの場合でもさらなるLDL-C値の低下効果があり、50mg/dL 以下にまで低下する場合も多くみられます。現在、日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版でLDL-C70mg/dL 未満を目指す必要のあるハイリスク集団は、冠動脈疾患をすでに起こした二次予防患者さんでしかもFH、急性冠症候群、合併症を有する糖尿病のいずれかを有する症例とされています。ただし、LDL-Cの低下のみで冠動脈疾患の再発を抑制できるわけではなく(残余リスクの存在)、他の動脈硬化リスクとなる合併疾患(高TG血症、低HDL-C 血症、喫煙、高血圧、糖尿病、CKDなど)への治療も重要です。


(※)アリロクマブ(プラルエント®)は2020年5月に販売を停止。
▶PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針

Q34 PCSK9 阻害薬を含め治療費が高額となる傾向にありますが、患者さんへの説明でどのような点に注意が必要ですか?

 PCSK9 阻害薬では3割負担でも月1万5千円を超える高額な治療薬です。高LDL-C 血症をはじめとした脂質異常症の治療はともすると数値の低下のみがフォーカスされ、その目的が見失われがちになる傾向にあります。実際に、患者さんになぜ脂質低下療法をしているのかお聞きしても主治医の先生からご説明がなかったというお返事もよくみられます。脂質異常症の治療の最大の目的は心血管疾患や急性膵炎など重篤で致命的な合併症を抑制することにあります。日本動脈硬化学会では海外でのエビデンスをもとに動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおいてLDL-C 70mg/dL 未満を目指すべきハイリスク集団として、冠動脈疾患をすでに起こした二次予防患者でしかもFH、急性冠症候群、合併症を有する糖尿病のいずれかを有する症例をあげています。患者さんがこの基準に当てはまる場合はLDL-Cの低下療法の恩恵が高い可能性があることを伝え、適切に治療を継続するよう勧めてください。ただ、高用量スタチンおよびエゼチミブの併用投与により十分なLDL-Cの低下を示す症例もあることから、主治医の先生による十分な適応の評価が必要となります。

Q35 日常診療で見落としてはいけない原発性脂質異常症を教えてください。

 原発性脂質異常症とは、血液中のTCやTGが増加する脂質異常症の中で、原因となる疾患や薬剤服用を伴わないものをさします。特に、冠動脈疾患を高率に発症するFH、家族性Ⅲ型高脂血症、家族性複合型高脂血症、急性膵炎を高率に発症する家族性Ⅰ型・Ⅴ型高脂血症を見落とさないようにしましょう。

 FHは、出生時から高LDL-C 血症が持続する優性遺伝疾患で、LDL 受容体機能の遺伝的な異常に起因します。FHヘテロ接合体の頻度は一般人1/200 ~ 500と高頻度であり、冠動脈疾患罹患率が高く若年死リスクもある疾患です。なお、アキレス腱肥厚(黄色腫)はFHに特異的な身体所見ですが、出現するのは6 ~ 7割の症例で全例ではないことに注意が必要です。診断には家族調査も重要であり、またFHと診断した場合には家族への診断・治療機会の提供も大切です。高LDL-C 血症では全例でFHを疑い、腱黄色腫の診察と家族歴の聴取を行うことがとても重要です。

 TCとTGの両者が高くなる高脂血症にはⅡb 型とⅢ型高脂血症があります。その鑑別にはリポ蛋白の電気泳動法が有効で、broadβバンドが認められれば、アポリポ蛋白Eの異常による家族性Ⅲ型高脂血症が疑われます。Ⅱb 型高脂血症では、思春期以降に高脂血症を呈する家族性複合型高脂血症の場合があります。家族性複合型高脂血症ではⅡa型やⅣ型高脂血症を呈する場合もあり、診断には脂質異常症の型を含む家族調査が重要です。家族性複合型高脂血症の多くの症例は多因子遺伝と考えられています。

 これらFHを代表とする原発性高脂血症は、若年から持続する脂質異常症によって冠動脈疾患等の発症リスクが非常に高くなるため、その他の危険因子とともに適正に管理し、動脈硬化症を予防することが重要です。

 また、TGが1,000mg/dLを超える場合には、カイロミクロンの増加するⅠ型やⅤ型高脂血症を疑います。急性膵炎のリスクにも注意が必要です。家族性Ⅰ型高脂血症の原因にはリポ蛋白リパーゼやアポリポ蛋白C-Ⅱの欠損などが知られています。

 これらの原発性脂質異常症が疑わしい場合には、適正な診断と治療が重要になります。遺伝子診断・遺伝カウンセリングが必要になる場合もありますので,適宜専門医にご相談ください。

Q36 若年のFH の診療において注意すべきことを教えてください。

 FHは、若年であっても、冠動脈疾患の既往のない一次予防でも薬物療法を考慮すべきです。まず、ホモ接合体かヘテロ接合体かの鑑別が必要です。両親がともにFHの場合、LDL-Cが400mg/dLを超える場合にはホモ接合体を疑い、専門施設への紹介が望ましいでしょう。ヘテロ接合体では、食事・運動療法を行いながらガイドラインを参考に薬物療法を開始します。小児でも成人でも、ヘテロ接合体における第一選択薬はスタチンですが、管理目標値は異なることに留意します。ただし、スタチンは妊婦には禁忌であることから、妊娠の予定のある女性では休薬する必要があります。

Q37 FHを見つけるコツがあれば教えてください。

 FHは出生時から高LDL-C 血症が持続する遺伝性疾患で、LDL 受容体などの遺伝的な異常に起因します(「Q&A35」参照)。

 FHヘテロ接合体は一般人1/200 ~ 500と高頻度なため、プライマリケアで遭遇しやすい遺伝性疾患の一つであり、スタチン内服患者の数%を占めていると報告されています。

 診断基準では感度特異度の検討から「未治療時LDL-C 180mg/dL 以上」とされていますが、実際には1割程度のFH 症例のLDL-C は160 ~180mg/dLです。ちなみに15歳未満の小児FHの診断基準は「LDL-C 140mg/dL 以上」です。

 FHを見つけるコツは「高LDL-C 血症の全例で腱黄色腫の有無を確認し、家族歴を確認すること」です。その上で以下の点に留意するのがよいと思われます。

① 腱黄色腫はFHに特異性が高い:LDL-C高値自体は特異性が低い所見ですが,FHの6 ~7割は腱黄色腫を呈し、腱黄色腫を伴う高LDL-C 血症のほとんどがFHです。ただし腱黄色腫を呈さないFH 症例もあり、特に若年者では診断基準を満たさないことが多く、20歳程度では腱黄色腫を確認できるのは半分以下です。

② 家族調査が重要:FHであれば50%の確率で遺伝しますので、家族調査を行うことでFHと診断できる可能性が高くなります。多数の罹患者がすべて腱黄色腫を呈さないことは極めて珍しいことです。家系図を書きながら近親者から一人一人を確認していきますが、初回で完成する必要はなく、患者さんの協力を得ながら徐々に広げましょう。FHの親子でもLDL-Cを互いに知らないことはよくありますので、健康診断の結果などで具体的な値を確認してもらうことも有効です。高コレステロール血症がある場合は積極的に受診を勧めましょう。もちろんFHと診断された場合は、さらに家族に適正な検査の機会を提供することも大切です。

③ 若い時期からLDL-Cが高い:FHは遺伝性疾患ですので、生下時からコレステロールが高い状態が続きますが、多くのケースでは採血が行われておらず、気がつかれないことが多いです。10歳代、20歳代で採血され、その記録が残っているようであれば、多くの場合TCが200mg/dLを超えているケースが多いです。

④ 極めてLDL-C値が高い場合はFHのことが多い:LDL-C値が250mg/dL 以上ではFHである確率が高くなります。

⑤ 「FH 疑い」として検査・治療:確定診断がつかなくとも、疑い例として検査・治療を進めることは現実の医療として大切です。治療開始前のLDL-C値が得られない場合なども含まれます。経過観察中に新たな家族の情報を得ることもあります。

⑥ 遺伝子診断の有用性:FHでは6 ~ 7割程度で原因遺伝子が確定できます。特に重症例では遺伝子診断でホモ接合体とわかる場合もあり、難病指定の根拠として重要になる場合があります。FHの遺伝子診断は2017年現在保険収載されていませんが、必要性が高いと思われる症例については専門医にご相談ください。


▶「日本動脈硬化学会認定動脈硬化専門医一覧
▶「家族性高コレステロール血症紹介可能施設
Q38 慢性腎臓病(CKD)を合併した脂質異常症の治療を教えてください。

 慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、糖尿病に匹敵する心血管イベント発症の高リスク病態です。糸球体濾過量(GFR)が低下するほど、また同じGFRなら蛋白尿が高度なほど、リスクが高くなります。その背景として、CKDに伴う古典的危険因子の増悪と、リン・カルシウム代謝異常など非古典的危険因子の関与が考えられており、包括的リスク管理が非常に重要となります。

 CKDにおける脂質異常症の特徴は、蛋白尿に伴う高LDL-C 血症を主体とした高コレステロール血症です。また、GFR低下に伴いVLDLおよびIDLなどのレムナントの蓄積による高TG血症が認められ、しばしば低HDL-C血症を合併します。

 脂質管理目標値は、LDL-C<120mg/dL、非絶食時や高TG血症合併時ではnon-HDL-C<150mg/dLが推奨されています。CKDを対象としたランダム化比較試験や、過去のランダム化比較試験の対象のうちCKDのみを抽出したサブ解析の結果から、スタチン単独あるいはスタチン・エゼチミブの併用療法は、CKD 合併症例の動脈硬化性心血管疾患を有意に抑制することが示されています。ただし、透析治療期(CKDステージ5D)においては、上記の脂質低下療法を新たに開始しても心血管イベント発症リスクを有意には抑制できなかったことから、CKD早期からの脂質対策が重要であると考えられています。

 腎機能低下症例では、薬物療法を行う際は、安全性への配慮が特に大切です。腎機能低下例においてもスタチン、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、プロブコール、陰イオン交換樹脂、イコサペント酸エチルとオメガ-3脂肪酸エチルは使用可能ですが、腎排泄性のフィブラート系薬は腎不全では禁忌です。横紋筋融解症などの有害事象を避けるため、慎重に薬剤や用量を選択し、投与開始後は効果と安全性を確認し、その後も慎重な観察が重要です。腎機能は経年的に低下していく場合が多いため、適宜、薬物療法継続の是非、投与量調整の要否について検討することが望まれます。

Q39 small dense LDLに対する日常臨床での対応を教えてください。

 LDLは密度1.019 ~ 1.063 g/mLに分布し、粒子平均径は20 ~ 26nm(200 ~260Å)といわれていますが、small dense LDLはLDLの中でも直径が小さく、密度が高い粒子に相当します。一般的には直径25.5nm以下のLDL粒子で、比重は1.044 ~1.063g/mLに分布しています。

 臨床的には、2 ~16%ポリアクリルアミド・グラジエントゲルを用いた電気泳動(PAGE)によるLDL粒子の移動度から、small dense LDLの出現を判定します。VLDLのピークからHDLのピークまでの距離=a、LDLまでの距離=bとし、b/a<0.4が正常です。

 簡易的には、ポリアクリルアミドディスクゲル電気泳動法を用いた測定はリポ蛋白分画(PAGディスク電気泳動法)として保険診療上認められている方法です。国際的にはグラジエントゲルを用いた電気泳動による方法が認知されていますが、直接法による定量も試みられており、sd LDL-Cとして2017年8月に米国食品医薬品局(FDA)に承認されました。なお、報告者によりsmall dense LDLの定義が異なる場合があるので、データを比較する場合は注意してください。

 small dense LDLの出現は耐糖能異常に伴う高TG血症や内臓脂肪の蓄積したメタボリックシンドロームで高頻度に認めます。血清脂質値が異常を示さない例(正脂血症例)でも耐糖能異常があればsmall dense LDLを認めることがよくあります。

 したがって、small dense LDLを減ずるためにはその原因である耐糖能異常、高TG血症や内臓脂肪蓄積を是正することで目的が達成されると考えられます。

Q40 高レムナント血症に対する日常臨床での対応を教えてください。

 レムナントは小腸由来のカイロミクロンや肝臓由来のVLDLなどのTGに富むリポ蛋白が、血中でリポ蛋白リパーゼの作用により変化した中間代謝産物です。レムナントはLDL同様、動脈硬化惹起性であり、Ⅲ型高脂血症、家族性複合型高脂血症、糖尿病性高TG血症、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病などで冠動脈疾患発症の増加に関与していると考えられます。

 レムナントの血中での増加は、従来リポ蛋白電気泳動でのbroadβパターンやミッドバンドの出現にて判定していましたが、現在、血中レムナント濃度を反映するレムナント様リポ蛋白コレステロール測定による定量的評価(RLP-CあるいはRemL-C)が可能です。また、リポ蛋白分画(HPLC法)を用いた場合、中間比重リポ蛋白(IDL)コレステロールがLDLやVLDLなどとともに測定できます。高レムナント血症の治療には生活習慣改善が重要ですが、薬剤としてはフィブラート系薬やニコチン酸誘導体が有効です。

 また、スタチンやエゼチミブにもレムナント低下効果があり、特に高LDL-C 血症合併例には有用です。レムナントの高い患者さんでは耐糖能障害や高血圧などをしばしば合併するため、動脈硬化性疾患予防の観点から、それらの管理も重要です。

Q41 女性の脂質異常症への対応を教えてください(妊娠、出産、授乳時の対応を含めて)。

 閉経前女性のLDL-Cは男性より低値ですが、閉経後急増し男性より高値を示すようになります。閉経前女性の心筋梗塞、脳梗塞発症率は男性に比べ極めて低いのですが、閉経後は増加し男女差が縮小します。したがって閉経前女性の脂質異常症に対する治療は生活習慣の改善が中心となります。

 一方、閉経前の場合、甲状腺機能低下症や原発性胆汁性胆管炎などの続発性脂質異常症の鑑別が必要で、また、冠動脈疾患発症リスクが高い一次予防患者、FH、冠動脈疾患再発予防患者などでは薬物療法が必要な場合もあります。妊娠可能年齢の女性の脂質異常症に対する薬物療法には注意が必要です。胎児、乳児に対するスタチン、フィブラート系薬の安全性は確立されておらず、催奇性の報告もあり妊婦、授乳婦に対する投与は禁忌です。

 閉経後女性の動脈硬化症発症リスクは閉経前に比べて高まるので、生活習慣改善を基本としつつ、危険因子の状況をみて薬物療法を検討することが大切です。

Q42 リポ蛋白(a) の異常値と、治療法について教えてください。

 リポ蛋白(a)[ Lp(a)]は、LDL粒子のアポリポ蛋白Bにアポ(a)が結合した特殊なリポ蛋白です。アポ(a)は、その蛋白分子内のクリングルという構造単位の繰り返しの回数が個々人により異なるため、その分子量も個々人により異なります。Lp(a)の濃度は、アポ(a)の分子量とほとんどの場合は逆相関します。Lp(a)濃度は、腎不全やストレス状態、あるいは甲状腺ホルモンやエストロゲンにより多少変化しますが、個々人でみるとほとんど変化しません。しかし、外科的侵襲や炎症などにより一過性に上昇することがあるので注意が必要です。

 さて、Lp(a)の正常値は、アポ(a)の表現型によっても異なるともいわれていますが、一般的には30mg/dL 以下、とするのがよいと考えられます。現在までにLp(a)濃度が高いと冠動脈疾患(CAD)のリスクが上昇することが多数報告されていますし、ニコチン酸誘導体やエストロゲンやPCSK9 阻害薬、さらには一部のCETP阻害薬にはLp(a)濃度を低下させる効果があることも報告されています。しかし、Lp(a)濃度を下げることによりCADのリスクが低下したという直接的なエビデンスはありません。欧州では、Lp(a)濃度のカットオフ値が50mg/dLに設定されており、FHにおいても、Lp(a)値が50mg/dL 以上ではCADのリスクがさらに高いことも報告されていますが、Lp(a)には民族差があることに注意が必要です。

 以上から現時点では、Lp(a)濃度が30mg/dLを超える場合にはCADのリスクは高いと考え、LDL-Cなどの脂質の値をはじめとした介入可能な危険因子の管理をより厳格に行う、あるいはLDL-C管理目標値を低く設定するなどの対応を行うのがよいと考えられます。

Q43 高HDL-C 血症の治療はどうしたらよいですか?

 極端な高HDL-C 血症は冠動脈疾患も死亡も増加が報告されています。したがって、動脈硬化性疾患予防に配慮した生活習慣の改善が必要です。LDL-C、non-HDL-Cを中心とした管理を行うことを基本としますが、リスクに応じて非侵襲的検査を用いた動脈硬化の評価を検討します。薬物治療にあたってはスタチン以外に検討する薬剤としてプロブコールがあります。プロブコールにはHDL-C低下作用があり、冠動脈疾患発症抑制効果を示した臨床試験もあるので、使用を考慮してもよいでしょう。ただし、QT延長の副作用があるので、すでにQT延長が確認されている場合や、QT延長効果のある他の薬剤を併用する場合には要注意です。

Q44 HDL-Cだけが低値の場合にはどうしたらよいですか?

 HDL-Cが30mg/dL 未満の極端な低値の場合は、タンジール病、LCAT欠損症、アポ AI欠損症などの可能性があります。その場合は専門家にご相談ください。これらの疾患群は指定難病でもありますから、登録をご検討ください。ここまで極端な低値ではない場合は、HDL-C低下をきたす原因を探してください。喫煙、肥満、運動不足などの原因があります。これらの問題があれば、禁煙、減量、有酸素運動の励行をご指導ください。

Q45 小児の脂質異常症で薬剤を用いますか?

 小児で薬物療法が必要になるのはFHの場合です。LDL-Cの生涯にわたる累積量が問題視され、海外では小児期からの積極的な治療が行われています。わが国でも、特にLDL-Cが高値の例では、スタチンを使って行こうという意見が多くなっています。小児の家族性高コレステロール血症治療ガイドが出されましたので参考にしてください。また、疑問点は専門医に相談すると良いとよいます。

Q46 小児の肥満は動脈硬化に関係しますか?

 特に学童期以降、肥満に伴うさまざまな合併症(血液の異常値)が認められます。内臓脂肪蓄積も認められ、アディポサイトカイン(脂肪細胞のホルモン)も成人と同様の変動を示します。すなわち、動脈硬化の形成、進展の方向に作用することになります。肥満で合併症を有する場合(肥満症)、肥満度を低下させる指導が必要となります。合併症がなくても小児期からの肥満は注意すべきです。

Q47 小児の肥満はBMIで判定できますか?

 小児の体格は、成人のようにBMIの一定値で評価できません。それは年齢により標準値が大きく変化するためです。そこで、小児では標準体重との隔たりをみる「肥満度」が用いられます。学童では、実測体重が標準体重より20%以上増加した場合、肥満と考えます。標準体重は文部科学省が定めた性別、年齢別、身長別の標準体重を用います。

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