医師向け:家族性高コレステロール血症(FH)について

1.概念・定義・疫学

家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia、以下FH)は、高LDL コレステロール(LDL-C)血症、早発性冠動脈疾患、腱・皮膚黄色腫を3 主徴とする常染色体顕性(優性)遺伝性疾患です。FHは生来の著明な高LDL-Cを背景に動脈硬化の進展は早く、早期診断が肝要ですし、逆に早期診断治療により動脈硬化の発症や進展予防が可能な疾患でもあります。ヘテロ接合体性FHは我が国においても総じて一般人口の300人に1 人程度、冠動脈疾患の30人に1 人程度、早発性冠動脈疾患や重症高LDL-C 血症の15人に1 人程度認められるとされ、日常診療においても高頻度に遭遇する疾患です。一方でホモ接合体性FHは36~100万人に1人以上の頻度で認められ、いわゆる難病法で規定される指定難病です(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 原発性脂質異常症調査研究班HP)。

 

2.病因

ヘテロ接合体性FHの原因となるのは血中LDLの異化を担うLDL受容体(LDL receptor:LDLR)のほか、アポリポ蛋白B-100(APOB)、Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9(PCSK9)の遺伝子変異で、いずれもLDL受容体経路において重要な役割を果たす分子です。臨床診断されたFHヘテロ接合体の5-8割で原因遺伝子の変異が確認されています。一方で非常に稀ですが(本邦で数家系のみの報告)、LDL受容体の肝細胞におけるアダプター蛋白をコードするLDL receptor adaptor protein 1 (LDLRAP1)の機能喪失型変異により常染色体潜性(劣性)形式でホモ接合体性FHの病態をとる疾患が存在し、常染色体潜性(劣性)高コレステロール血症(ARH)と呼ばれています。

1)LDL受容体
FHの大部分はLDL受容体の遺伝子変異が原因です。多くの遺伝子変異が同定されており、これまで世界で2000種以上におよぶ遺伝子変異がFHの原因として報告されています。本邦に限っても100種以上の変異が報告されていますし、地域により高頻度に認められる変異もございます(図1)。LDL受容体とPCSK9やLDLRAP1などの変異が複合的に合併することにより、LDL受容体変異単独によるFHに比べてLDL-C値が高値、冠動脈疾患の合併が多いなどの病態が生じることも報告されています。


2)アポB-100
LDL受容体に対するリガンドであるアポB-100の遺伝子変異でもLDL受容体の遺伝子変異と同様の臨床像を示し、家族性欠陥アポリポ蛋白B-100血症(Familial Defective Apolipoprotein B-100: FDB)と呼ばれています。欧米の白人ではかなり高頻度ですが、他民族では頻度が低いと言われています。日本人でも少数例報告があります。

3)PCSK9(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9)
LDL受容体の分解に関与し、機能向上変異(Gain-of-function mutation)はLDL受容体を減少させるため、高LDL-C血症をきたします。機能向上変異を有するPCSK9は、LDL受容体との結合力が強く、LDL受容体の分解が促進されるため、LDL受容体活性が低下して、LDL受容体の遺伝子変異と同様の病態を示すと考えられています。

4)LDL Receptor Adapter Protein 1(LDLRAP1)
LDL 受容体のエンドサイトーシスに関与し、遺伝子変異を両親から受け継いだ場合に常染色体潜性(劣性)高コレステロール血症(Autosomal Recessive Hypercholesterolemia:ARH)として発症します。ARH は巨大な黄色腫形成と高LDL-C 血症からFH ホモ接合体が疑われることが多いですが、両親に著明な高LDL-C 血症が認められないときに疑うべき非常に稀な疾患です。本疾患はFH ホモ接合体として扱います。

 

3.病態

A) FHの血清脂質値

ヘテロ接合体性FHの血清総コレステロール値の平均は、320~350 mg/dLであり、非FHの約2倍です。ホモ接合体性FHの総コレステロール値はヘテロ接合体性FHの約2倍であり、非FH、ヘテロ接合体性FH、ホモ接合体性FHと3峰性の分布をとります(図2)。しかし、それぞれオーバーラップもありますし、ヘテロ接合体性FHの中でもバラつきがございます。バラつきについては変異の種類(機能喪失型変異や機能低下型変異)や、その他のLDL関連遺伝子変異の存在、ポリジェニック(多因子)などの要因が関連するとされています。

B) FHの黄色腫
FH患者の皮膚や腱にLDL由来のコレステロールが沈着し、皮膚黄色腫、腱黄色腫を呈します。黄色腫は、皮膚では肘関節、膝関節の伸側、手首、臀部など、機械的刺激が加わる部位に多く発生しますが、これらの黄色腫の多くはホモ接合体性FHに特徴的です(図3)。一方で腱黄色腫はアキレス腱肥厚が一番良く知られており、へテロ接合体性FHの診断根拠として重要です。視診のみでも診断できることがありますが、触診が最も重要であり、正常と比較して硬く、肥厚したアキレス腱が触知できます。X線軟線撮影により、アキレス腱が男性で8.0 mm以上、女性で7.5mm以上、あるいは超音波法により男性で6.0mm以上、女性で5.5mm以上あれば、アキレス腱肥厚ありとします(図4、図5)。なお、肥厚もそうですが、アキレス腱に異所性石灰化を認めた場合には強くFHを疑います。なお、一般にアキレス腱肥厚には左右差がほとんどありませんが、一側のみ肥厚する場合もあります。極端な左右差がある場合はむしろアキレス腱の断裂の既往やその手術痕を疑うべきです。腱黄色腫によりアキレス腱に自発痛、圧痛、歩行時の疼痛を訴えることもあります。一方、眼瞼黄色腫はFHに特異的なものではなく、正脂血症の患者にも認められるので、診断的な価値はありません。


C) FHと動脈硬化
ヘテロ接合体性FHにおける動脈硬化の起こり方には、症例による個体差を認めます。男性の方が冠動脈疾患を罹患する年齢が若く、罹患頻度も高いです。男性で30歳代から、女性で50歳代から心筋梗塞を発症することが知られていますが、冠動脈CTを用いた検討では、男性で20歳頃、女性で30歳頃より冠動脈プラークの形成が認められるとされます。ヘテロ接合体性FHにおいて、冠動脈疾患発症のリスク解析では、非FHと同様に男性、加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、高トリグリセライド血症、低HDL-C血症、高Lp(a)血症、肥満など、LDL-C以外のリスクが動脈硬化関連因子として知られています。冠動脈硬化のほか、頸動脈硬化や腹部大動脈瘤を含む末梢動脈疾患を合併することも多いです。また、大動脈弁狭窄症との関連も知られておりますし、ホモ接合体性FHの場合には、大動脈弁上狭窄が合併症として知られています。一方でFHと脳血管障害については、関連は明確ではありません。

D) FHと角膜輪
図6 に示すような角膜輪もFH に特徴的な所見ですが、50歳未満のFH 患者におけるその出現頻度は3 割程度であり、感度は高くはありません。また高齢者の多くに老人環が観察され、鑑別が困難な場合もあります(特異性は低い)。しかし、50歳未満の患者に認められる角膜輪はFHを疑うきっかけとしての診断的価値は高いと思われます。

 

4.診断

未治療時のLDL-C値が高値であること、アキレス腱黄色腫や皮膚結節性黄色腫などの高LDL-C血症に伴う身体症状、FHや早発性冠動脈疾患の家族歴が診断の根拠となります。なお、遺伝学的検査により病原性遺伝子変異の存在が確認された場合には、成人小児ともに診断となります。遺伝学的検査については2022年度より保険収載されております。成人および小児の診断基準を表1(成人用)、表2(小児用)に掲載します。女性においては更年期以後、LDL-C値の上昇を認めることが知られており、またFHと気づかれずに既に薬物治療でLDL-C値がそれほど高値でない場合もありFHの診断には留意が必要です。なお、鑑別すべき疾患としてシトステロール血症が重要です。シトステロール血症の診断およびFHとの鑑別については厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 原発性脂質異常症調査研究班HPを参照ください。また、ホモ接合体性FHの診断については必ず専門医にご相談下さい。
家族性高コレステロール血症に関する保険診療での遺伝子解析検査について
FH紹介可能な施設等一覧
動脈硬化専門医

 

5.治療と予後

FHの治療の基本は、動脈硬化症の発症および進展の予防であり、早期診断と厳格な治療が最も重要です。生来からの著明な高LDL-C血症は蓄積効果となり、動脈硬化進展に関連するとされており、FHは出来るだけ早期に診断を下し、低脂肪食などの正しい食生活を子供時代から身につけると同時に、喫煙、肥満などの動脈硬化症の危険因子をしっかりと避け、高血圧や糖尿病を厳格にコントロールすることが必要です。しかしながら、生活習慣の改善のみでは、LDL-C値を安全域まで充分に低下させることは困難な場合が多く、薬物治療を行います。また、LDL-C以外のリスクを厳格にコントロールすることも重要です。成人(15歳以上)ヘテロ接合体性FHの治療チャートを図7に示し、小児(15歳未満)ヘテロ接合体性FHの治療チャートを図8に示します。重要な点はヘテロ接合体性FHにおいては10歳以上でLDL-C値が繰り返し180mg/dLを超えるようなら薬物治療の適応があるということです。なお、スタチンを基本薬剤とし他剤併用も考慮しLDL-C管理目標値を目指します。また、ホモ接合体性FHの治療チャートを図9に示します。ホモ接合体性FHの診断および治療は必ず専門医に相談してください。


 

6.ホモ接合体性FH難病申請

平成21年10月よりホモ接合体性FHはいわゆる指定難病となっております。詳細は、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 原発性脂質異常症調査研究班HPを参照ください。

 

関連リンク

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家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 解説動画
成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 2022 (PDF)
小児家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 2022 (PDF)
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 第4章 家族性高コレステロール血症
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