循環器疾患、動脈硬化性疾患の撲滅において、生活習慣の改善、なかでも食事栄養の改善は重要である。現在、食品の栄養表示は栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176条)で義務付けられている。その一つに「3.脂質」があるが、脂肪には多くの種類があり、それらをひとまとめにして総体としての「脂肪」摂取を低減することを目的として「脂質」と表示することには問題があると考える。
摂取脂質総量が動脈硬化性心疾患のリスクを促進しないことは、摂取脂質総量を低下させたランダム化対照比較試験(RCT)のメタアナリシスで冠動脈疾患の減少は得られていないことから示されている。一方、飽和脂肪酸を減少させ多価不飽和脂肪酸を増加させたRCTのメタアナリシスでは血清コレステロール値の低下とともに冠動脈疾患リスクの低下を認めている1)。また、飽和脂肪酸摂取を減らし、多価不飽和脂肪酸に置換した多くの試験で冠動脈疾患リスクの低下が得られている2)。脂肪酸のなかでも魚油に多いn-3多価不飽和脂肪酸摂取は冠動脈疾患のリスクを低下することが多くの臨床試験で証明されている3,4)。このように全ての脂肪が健康障害に繋がるわけではなく5)、現時点で過剰摂取が動脈硬化性疾患を増加させる脂質としては、コレステロール、飽和脂肪酸、トランス型不飽和脂肪酸(トランス脂肪酸)が挙げられる。
コーデックス規格では、飽和脂肪酸の摂取量を低減させるよう求めており、北・南米諸国、オーストラリア、韓国、台湾、香港、マレーシアでは既に飽和脂肪酸の表示を義務付けている。また、米国、カナダ、韓国、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジル、香港、台湾などに食品を輸出している日本の食品企業は会社の規模を問わず、すでに「脂質」の表示に加え、少なくとも「飽和脂肪酸」、「トランス脂肪酸」の表示を実行しており、日本国内の消費者向けに販売される食品に関しても、表示を義務化することを切に要望するものである。
これらのことから、「脂質」の表示に加え、動脈硬化性疾患発症のリスクとなる「コレステロール」、「飽和脂肪酸」、「トランス脂肪酸」の栄養表示をただちに行う必要性があることを表明する。
引用文献
1) Hu FB, Willet W: Optimal diets for prevention of coronary heart disease. JAMA 288: 2569-2578, 2002.
2) Baum SJ, Kris-Etherton PM, Willett WC, et al: Fatty acids in cardiovascular health and disease: A comprehensive update. J Clin Lipidol 6(3):216-234, 2012.
3) GISSI-Prevenzione Investigators: Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction: results of the GISSI-Prevenzione trial. Gruppo Italiano per lo Studio. della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico. Lancet 354: 447-455, 1999.
4) Yokoyama M, Origasa H, Matsuzaki M, et al: Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 369(9567):1090-1098, 2007.
5) 多田紀夫:虚血性心疾患の一次・二次予防のための非薬物療法.Med Practice 28(9): 1641-1648, 2011.