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家族性高コレステロール血症について

1.概念・定義・疫学
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)は、low density lipoprotein (LDL)受容体関連遺伝子の変異による遺伝性疾患であり、常染色体優性遺伝形式をとります。FHは高LDLコレステロール(LDL-C)血症、皮膚ならびに腱黄色腫、および早発性冠動脈硬化症を主徴とします。FHは遺伝的背景のない高コレステロール血症に比べてLDL-C増加の程度が著しく動脈硬化の進展は早く、それに伴う臓器障害の程度も強いため、動脈硬化性疾患の予防を目的としたLDL-C低下治療が必要です。
FHヘテロ接合体患者は500人に1人以上、ホモ接合体患者は100万人に1人以上の頻度で認められ、わが国におけるFH患者総数は、25万人以上と推定されます。様々な遺伝性代謝疾患の中でもFHは最も頻度が高く、日常診療において高頻度に遭遇する疾患といえます。このように、FHは稀な疾患ではなく、治療を受けている高LDL-C血症患者の約8.5%を占めるとする報告がなされています。

2.病因
FHの原因となるのは血中LDLの異化を担うLDL受容体のほか、アポリポ蛋白B-100(アポB-100)、Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9(PCSK9)の遺伝子変異で、いずれもLDL受容体経路において重要な役割を果たす分子です。臨床診断されたFHヘテロ接合体の5-8割で原因遺伝子の変異が確認されています。
1)LDL受容体
FHの大部分はLDL受容体の遺伝子変異が原因です。多くの遺伝子変異が同定されており、これまで世界で1000種におよぶ遺伝子変異がFHの原因として報告されています (http://www.ucl.ac.uk/fh/)。本邦に限っても100種以上の変異が報告されています。
LDL受容体とPCSK9やLDLRAP1などの変異が複合的に合併することにより、LDL受容体変異単独によるFHに比べてLDL-C値が高値、冠動脈疾患の合併が多いなどの病態が生じることも報告されています。
2)アポB-100
LDL受容体に対するリガンドであるアポB-100の遺伝子変異でもLDL受容体の遺伝子変異と同様の臨床像を示し、家族性欠陥アポリポ蛋白B-100血症(Familial Defective Apolipoprotein B-100: FDB)と呼ばれています。欧米の白人ではかなり高頻度ですが、他民族では頻度が低いと言われています。日本人における報告はまだありません。
3)PCSK9(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9)
LDL受容体の分解に関与し、機能向上変異(Gain-of-function mutation)はLDL受容体を減少させるため、高LDL-C血症をきたします。機能向上変異を有するPCSK9は、LDL受容体との結合力が強く、LDL受容体の分解が促進されるため、LDL受容体活性が低下して、LDL受容体の遺伝子変異と同様の病態を示すと考えられています。

3.病態
角膜輪 FHヘテロ接合体の臨床所見の特徴はまず高LDL-C血症の出現です。多くの例において出生時より明らかな高LDL-C血症が認められますが、幼少時においてはこれが唯一の臨床症状と言えます。角膜輪(図1)や腱黄色腫は10歳台後半から現れ、30歳までに半分の症例に現れます。50歳未満で角膜輪が見られれば、FHの可能性が高いと言えます。死亡するまでには、80%の症例でこれらの症状が出現すると言われています。冠動脈疾患は、男性で40歳以降、女性で50歳以降に発現することが多いといわれています。
A) FHの血清脂質値
FHヘテロ接合体の血清総コレステロール値の平均は、320~350 mg/dlです。日本人FHヘテロ接合体641名の未治療時平均LDL-Cは248mg/dL(男性296名、女性345名、平均年齢51歳)と報告されています。FHホモ接合体の血清総コレステロール値は600~1,200 mg/dlであり、FHヘテロ接合体よりはるかに高値をとります。FHの血清中に増加しているリポ蛋白は主にLDLであり、Ⅱa型の高脂血症病型を示す例が多いですが、レムナントリポ蛋白の異化障害によりトリグリセライドの増加を認める例もあり、これらはⅡb型となります。
B) FHの黄色腫
FH患者の皮膚や腱にLDL由来のコレステロールが沈着し、皮膚黄色腫、腱黄色腫を呈します。黄色腫は、皮膚では肘関節、膝関節の伸側、手首、臀部など、機械的刺激が加わる部位に多く発生します(図2)。腱黄色腫はアキレス腱肥厚が一番良く知られており、FHへテロ接合体の診断根拠として重要です。視診のみでも診断できることがありますが、触診が最も重要であり、正常と比較して硬く、肥厚したアキレス腱が触知できます。X線軟線撮影により、アキレス腱が9 mm以上あれば、アキレス腱肥厚ありとします(図3)。一般にアキレス腱肥厚には左右差がほとんどありませんが、一側のみ肥厚する場合もあります。極端な左右差がある場合はむしろアキレス腱の断裂の既往やその手術痕を疑うべきです。腱黄色腫によりアキレス腱に自発痛、圧痛、歩行時の疼痛を訴えることもあります。一方、眼瞼黄色腫はFHに特異的なものではなく、正脂血症の患者にも認められるので、診断的な価値はありません。

腱黄色腫
図2.腱黄色腫
アキレス腱肥厚
図3.アキレス腱黄色腫
C) FHと動脈硬化
FHヘテロ接合体における動脈硬化の起こり方には、症例による個体差を認めます。男性の方が冠動脈疾患を罹患する年齢が若く、罹患頻度も高いです。原発性高脂血症調査班による調査では、冠動脈疾患の罹患数は、男性で30歳代から、女性で40歳代から増加しはじめ、男性のほうが高い頻度を示すことが報告されています。FHヘテロ接合体において、冠動脈疾患発症のリスク解析では、男性、加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、高トリグリセライド血症、低HDL-C血症、高Lp(a)血症、肥満など、LDL-C以外のリスクの他、FHにおいてはLDL-Cの高値(LDL≧260 mg/dL)、アキレス腱肥厚の程度(≧14.5 mm)などがリスクとして報告されています。
冠動脈硬化のほか、腹部大動脈瘤を合併することも多く、その頻度は約26%と報告されています。FHの脳血管障害については、脳卒中死亡率が一般日本人のものと違いがないという報告があります。一方、フィンランドにおいてはFH54例の前向き調-査で、脳梗塞の頻度は、一般人の20倍であったと報告されています。末梢動脈疾患は、8-16%のFH例に合併すると報告されています。

4.診断と鑑別診断
A)FHヘテロ接合体の診断基準
未治療時のLDL-C値が高値であること、アキレス腱黄色腫や皮膚結節性黄色腫などの高LDL-C血症に伴う身体症状、FHや早発性冠動脈疾患の家族歴が診断の根拠となります。成人および小児の診断基準を表1(成人用)、表2(小児用)に掲載します。女性においては更年期以後、LDL-C値の上昇を認めることが知られており、またFHと気づかれずに既に薬物治療でLDL-C値がそれほど高値でない場合もありFHの診断には留意が必要です。

表1. 成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準
1.高LDL-C血症(未治療時のLDL-C180mg/dL以上)
2.腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)
・ 続発性高脂血症を除外した上で診断する。
・ 2項目が当てはまる場合、FHと診断する。FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。
・ 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。
・ アキレス腱肥厚は軟線撮影により9 mm以上にて診断する。
・ LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。
・ すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。
・ 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。
・ FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。

表2. 成小児(15歳未満)FHヘテロ接合体診断基準
1.高コレステロール血症:未治療時のLDL-C値≧140 mg/dL
(総コレステロール値≧220 mg/dLの場合はLDL-C値を測定する。)
2.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)
・ 小児の場合、腱黄色腫などの臨床症状に乏しいため診断には家族のFHについて診断することが重要である。
・ 成長期にはLDL-C値が変動することがあるため、注意深い経過観察が必要である。
・ 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。


B)FHの動脈硬化の診断
FH患者は動脈硬化病変の発症進展が早く、半年に1度は専門医を受診し、冠動脈疾患およびその他の動脈硬化性疾患の早期診断、早期治療に努めるべきです。FHヘテロ接合体は1~2年毎に冠動脈疾患の有無に関する精査を行います。また、このほかには、ankle-brachial blood pressure index (ABI)、頚動脈エコー、腹部エコーを行い、大腿動脈、頚動脈の動脈硬化および腹部大動脈瘤の評価を行います。
C) 鑑別診断
FHと鑑別を要する疾患として、高LDL-C血症を呈する続発性高脂血症(糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など)と、類似疾患である家族性複合型高脂血症(FCHL)が重要です。FCHLは腱黄色腫を合併しないこと、small dense LDLの増加、家系内に他のタイプの脂質異常症(IIa型、IIb型、IV型)が存在すること、幼少期ではLDL-C値がFHでみられるほど上昇しないことなどから鑑別されますが、詳細な家族調査が必要となります。

5.治療と予後
FHの治療の基本は、冠動脈疾患など若年齢で起きる動脈硬化症の発症および進展の予防であり、早期診断と厳格な治療が最も重要です。FHは出来るだけ早期に診断を下し、低脂肪食などの正しい食生活を子供時代から身につけると同時に、喫煙、肥満などの動脈硬化症の危険因子をしっかりと避け、高血圧や糖尿病を厳格にコントロールすることが必要です。しかしながら、生活習慣の改善のみでは、LDL-C値を安全域まで充分に低下させることは困難な場合が多く、専門医の指導のもとに、以下に記述する薬物療法を行います。また、LDL-C以外のリスクを厳格にコントロールすることも重要です。
A) FHへテロ接合体患者のコントロール目標
成人FHヘテロ接合体の冠動脈疾患発症リスクは一般的に二次予防より高いと考えられるため、LDL-Cの管理目標値は、100 mg/dL未満とします。この目標値に到達しない場合でも、50%以上の低下を治療目標の目安にします。15歳未満の小児、妊娠可能年齢の女性については、この基準は適用されません。
B) 成人(15歳以上)FHヘテロ接合体患者の薬物療法
FHヘテロ接合体患者に対する薬物療法については、コレステロール合成経路の律速酵素の阻害薬であるHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が第一選択です。FHヘテロ接合体に対しては、LDL-C値の低下効率から考えると、ストロングスタチンが第一選択薬になる場合が多いでしょう。
スタチンは初期用量から使用し、LDL-C値の反応と副作用発現を観察しながら必要に応じて増量します。スタチンのLDL-C値低下効果は用量依存的ですが、倍量の投与を行っても、6%程度しかさらなる低下は認められず、副作用の頻度と重症度も用量依存的に増加します。一方、スタチンに加えて、他の薬効を有する薬剤を併用すると、よりLDL-Cの低下効果が得られることが報告されています。スタチン単剤で充分な効果が得られない場合、コレステロール吸収阻害剤であるエゼチミブ、胆汁酸吸着レジンであるコレスチラミンやコレスチミド、あるいはプロブコールなどを併用します。
薬物治療開始後は、問診で筋痛などの筋肉の症状の有無を問い、総コレステロール、HDL-C、トリグリセライドを測定し、LDL-Cを計算して効果の判定を行うと同時に、AST、ALTなどの肝機能をはじめCKを測定して、副作用の発現に注意する必要があります。副作用の中でも最も重篤な横紋筋融解症を見のがさないように注意が必要です。
C) LDLアフェレシス療法
薬物を使用しても血清総コレステロール値が250 mg/dl以下に低下せず、明らかな冠動脈硬化を有するFHヘテロ接合体、およびFHホモ接合体に対しては、体外循環により血漿LDLを直接取り除くLDLアフェレシスの適用となります。日本人において、冠動脈疾患を有するFHヘテロ接合体に対するLDLアフェレシスの有効性を証明するデータが複数報告されています。
なお、平成21年10月より、FHホモ接合体が特定疾患治療研究事業における対象疾患に認定されました。
FH特定疾患認定手続きについては、厚生労働省難病情報センターの特定疾患治療研究事業のホームページ(http://www.nanbyou.or.jp/what/nan_kenkyu_45.htm)に記載されています。