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日本動脈硬化学会について
ACC/AHAガイドラインに対する日本動脈硬化学会の見解

ACC/AHA「心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメントのガイドライン」に対する日本動脈硬化学会の見解


日本動脈硬化学会
2014年4月21日

ACC/AHAは2013年11月に「心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメントのガイドライン」を発表した。日本動脈硬化学会では学会内での議論をもとに、当該ガイドラインの内容について以下の見解を表明する。


1.ACC/AHAガイドラインの概要

このガイドラインの対象読者はプライマリケアに携わる人である。臨床上の重要な問題点(Critical Question : CQ)を設定し、1998年から2009年までに報告された18歳以上を対象としたRandomized Controlled Trial (RCT)、観察研究、メタ解析、システマティックレビューの結果をもとに回答する形で作成された。

栄養に関するCQは2問あり「無治療もしくは他の治療と比べて食事パターンと個別の栄養素組成が心血管疾患危険因子に及ぼす影響は何か?」と「無治療もしくは他の治療と比べて食事から摂取するナトリウムとカリウムの心血管疾患危険因子に及ぼす影響は何か?」である。食事パターンと個別の栄養素組成が血中脂質と血圧に及ぼす影響について検証し、血漿LDL-Cと血圧に及ぼす影響に関してのみ推奨事項を示した(表1)。なお、サプリメント摂取については食事由来の栄養素摂取と影響が異なることと、生活習慣を反映しないことから解析対象から除外された。

身体活動に関するCQは「無治療もしくは他の治療と比べて脂質と血圧に対する身体活動の効果は何か?」であり、LDL-C、non HDL-C、HDL-C、トリグリセライド(TG)と血圧に対する有酸素運動とレジスタンス運動の効果を検証し、有酸素運動のLDL-Cとnon HDL-Cの低下効果と降圧効果を示した(表1)。

表1 生活習慣マネジメントの推奨事項(栄養6項目と身体活動1項目)
野菜・果物、全粒穀物の摂取、低脂肪乳製品、鶏肉、魚、豆類、非熱帯性植物油、種実の摂取を増やし、甘い物、砂糖含有飲料、牛肉・羊肉(赤肉)を制限するような食事パターンで食べること。
  • 上記の食事パターンを、適正なエネルギー必要量、個人的・文化的嗜好、食事療法が必要な各病態(糖尿病など)に合わせる。
  • DASH食パターン、米国農業省食パターン、AHA食などの食事計画を用いる。
LDL-Cを低下させるため、飽和脂肪酸エネルギー比を5〜6%となるような食事パターンを目指す。
LDL-Cを低下させるため、飽和脂肪酸エネルギー比を減らす。
LDL-Cを低下させるため、トランス脂肪酸エネルギー比を減らす。
血圧を低下させるため、ナトリウム摂取量を減らす。
  • 一日のナトリウム摂取量を2400mg (=食塩相当量として6.0g)以下にする。
  • 著明な降圧のためには一日のナトリウム摂取量1500mg以下の厳格な減塩が望ましい。
  • 減塩の到達目標を達成できない場合は、一日のナトリウム摂取量を少なくとも1000mg減らす。
血圧を低下させるため、DASH食パターンと減塩を組み合わせる。
LDL-Cとnon HDL-Cを低下させるため、また、血圧を低下させるため、中等度〜きつい強度の有酸素運動を40分間、週3〜4回実施する。

2.日本動脈硬化学会の見解

本学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012は、包括的管理の重要性を提示しており、今回のACC/AHAガイドラインでの血圧と脂質に関する生活習慣マネジメントは、本学会の趣意と一致している。一部に相違点を認め、以下に示す。


2-1 食事に関して

今回のACC/AHAガイドラインでは、個別の栄養素よりも食事パターンで摂ることを強調している。具体的にはDASH食、米国農業省食パターン、AHA食などを挙げている。これらの食事バターンでは飽和脂肪酸、総脂肪、コレステロールが少なく、カリウム、カルシウム、タンパク質、食物繊維が多い食事として特徴付けられている。我が国では伝統的な日本食(The Japan Diet)が同様の食事パターンを示しており、伝統的な日本食は抗動脈硬化的であることがすでに示されている1)。本学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012では、伝統的な日本食を減塩で食べることを推奨している2)。伝統的な日本食ではDASH食パターンを構成する食品に加えて、米国では食されていない海藻類を摂取することと、豆類のなかで特に大豆を摂取することの意義が確認されている1-4)

LDL-Cを下げるために飽和脂肪酸とトランス脂肪酸エネルギー比を減少させることについては、我々も異論はなく、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012においても飽和脂肪酸を4.5%以上7%未満にするよう、トランス脂肪酸の摂取を減らすことを推奨している2)。日本における摂取実態は、2003年から2007年までの国民健康・栄養調査成績を用いた結果によると、推定中央値で飽和脂肪酸エネルギー比は7%、トランス脂肪酸摂取量は0.9gで、米国と比べると約半量と少ない5)。しかし、男女とも年齢が低いほどこれらの摂取量が多く、多量に摂取している場合には、積極的に摂取を控えることを推奨すべきである5)

なお、コレステロール摂取量については、LDL-Cの低下との関連を示すエビデンスは不十分であるとして特に提言されていないが、コレステロール摂取量と心血管疾患のリスクとの関連を検証したものではないことに注意が必要である。


2-2 身体活動に関して

ACC/AHAガイドラインで採用された個々のメタ解析には日本人の論文は数編採用されたのみで、大部分は白人を対象としたRCTである。本学会のガイドラインは日本人の疫学研究とRCTを検証し、海外のエビデンスを含め作成したことと、評価項目が動脈硬化性心血管疾患の発症であることが異なる2,5)。また日本人での運動の脂質に対する効果としては、LDL-Cの低下よりむしろTGの低下とHDL-Cの上昇を認めており6)、non HDL-Cの低下が示唆される。


以上、新たなACC/AHAガイドラインの概要を紹介し、これに対する本学会の見解を述べた。本学会では、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版において推奨している診断・治療指針の修正・変更が必要との認識には至らなかった。今後も動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版が臨床現場の指針となることを期待する。




参考文献
  • Tada N, et al.: Japanese dietary lifestyle and cardiovascular disease. J Atheroscler Thromb 2011;18:723-734.
  • Teramoto T, et al.: Committee Report 7-A Treatment A) Lifestyle Modification. Executive Summary of the Japan Atherosclerosis Society (JAS) Guidelines for the Diagnosis and Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases in Japan ―2012 Version J Atheroscler Thromb 2013;20:835-845.
  • Sadakane A, et al.: Dietary Patterns and Levels of Blood Pressure and Serum Lipids in a Japanese Population. J Epidemiol 2008;18:58-67
  • Kondo I, et al.: Association between Food Group Intake and Serum Total Cholesterol in the Japanese Population: NIPPON DATA 80/90. J Epidemiol 2010;20(supple 3):S576-S581
  • 平成22年度食品安全委員会 新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸 2012年3月  https://www.fsc.go.jp/sonota/trans_fat/iinkai422_trans-sibosan_hyoka.pdf
  • Koba S, et al.: Physical activity in the Japan population: association with blood lipid levels and effects in reducing cardiovascular and all-cause mortality. J Atheroscler Thromb 2011;18: 833-845.