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日本動脈硬化学会について
ACC/AHAガイドラインに対する日本動脈硬化学会の見解

ACC/AHAガイドラインに対する日本動脈硬化学会の見解


日本動脈硬化学会
2014年2月1日

ACC/AHAは、NIHと共同で動脈硬化性心血管疾患(ASCVD: Atherosclerotic Cardiovascular Disease)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した。日本動脈硬化学会は、学会内での議論をもとに当該ガイドラインに対し以下の見解を表明する。


1. ACC/AHAガイドラインの概要

ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questionsに対する回答の形で作成されており、質の高いRandomized Controlled Trial (RCT)とメタ解析の論文のみを系統的に査読し、作成されたものである。従って、多くの観察研究、フォローアップ期間の短いRCTやサブ解析など多くのエビデンスが反映されていないことを理解すべきである。

ACC/AHAガイドラインの結論は以下の通りである。1)スタチンは一次あるいは二次予防において動脈硬化性心血管疾患の発症リスクを有意に減少させる、2)スタチン以外の薬剤によるリスク低下のエビデンスはない、3)LDL-Cやnon-HDL-Cの治療目標値を設定できるようなエビデンスはない。

1)においてACC/AHAガイドラインではスタチン治療の有効性と安全性を考慮し、治療が有益と判断される以下の4つの患者群を同定した。(1) ASCVDを有する患者(二次予防)、(2) LDL-Cが190mg/dL以上の患者、(3) LDL-Cが70-189mg/dLの一次予防糖尿病患者(40-75歳)、(4) LDL-Cが70-189mg/dL、一次予防非糖尿病患者(40-75歳)で10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる;図1参照)。

また、上述した3)の結論よりLDL-Cやnon-HDL-Cの管理目標値は設定せず、図1に示すように高強度(50%以上のLDL-C低下)あるいは中強度(30-50%のLDL-C低下)のスタチン治療を推奨した(それぞれのスタチン投与量については表1参照)。


2.日本動脈硬化学会の見解

今回のACC/AHA ガイドラインの特徴の一つは、脂質管理目標値を設定しないことである。LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状では十分ではないことに関しては我々も異論はなく、すでに動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20-30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されている。しかし日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、多くの実地臨床家がガイドラインを遵守し、またその目安を求めている。 患者の治療に対するアドヒアランスも考慮すると従来通りガイドラインの管理目標値を維持するべきであるとの結論にいたった。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版には“脂質管理目標値は到達努力目標値である”と強調されていることも再度認識すべきである。

また、治療に関しては高強度、中強度のスタチンのみが推奨されているが、我が国における治療実態を考慮し、保険診療に則った用量を用いるべきである。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、我が国のガイドラインではサブ解析などのエビデンスも考慮し、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。この方針についても現時点では我々は変更する必要はないと考えている。

今回のACC/AHAガイドラインで用いているNew pooled cohort ASCVD Risk equationsは、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳卒中)の10年間のリスクを予測するものであり、米国の5つの地域住民のコホート研究を統合したデータに基づいて作成されている。しかし、これをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながる。現在我々はNIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、日本人にとってより予測能の高いリスク評価手法を今後も検討してゆく必要性はあろう。

以上新たなACC/AHAガイドラインの概要と日本動脈硬化学会の見解を述べた。本学会では、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版において推奨している診断・治療指針の修正・変更が必要との認識には至らなかった。今後も動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版が臨床現場の指針となることを期待する。



表1 高強度、中強度、低強度スタチンの種類と投与量 スタチンの種類と投与量
Stone NJ, et al.: J Am Coll Cardiol.(2013),doi:10.1016/j.jacc.2013.11.002, Stone NJ, et al.: Circulation. 2013 Epub Nov. 12 2013 doi: 10.1161/01.cir.0000437738.63853.7aより引用改変


スタチン治療の推奨
ASCVD: atherosclerotic cardiovascular disease, ACS: acute coronary syndrome, MI: myocardial infarction, TIA: transient ischemic attack, PAD: peripheral artery disease

Stone NJ, et al.: J Am Coll Cardiol.(2013),doi:10.1016/j.jacc.2013.11.002, Stone NJ, et al.: Circulation. 2013 Epub Nov. 12 2013 doi: 10.1161/01.cir.0000437738.63853.7aより引用改変