日本動脈硬化学会について
理事長挨拶
日本動脈硬化学会 理事長  山下静也

日本動脈硬化学会理事長
山下 静也

この度、第10代目として、東北大学加齢医学研究所の佐藤靖史先生より一般社団法人日本動脈硬化学会理事長の任を引き継がせて頂くことになりましたので、この場を借りてご挨拶申し上げます。
 私は1979年に大阪大学医学部を卒業し、研修医を経て、当時第二内科の垂井清一郎名誉教授、研究室チーフの松澤佑次教授の元で脂質代謝と動脈硬化、血管生物学の研究を開始しました。その後、角膜混濁や動脈硬化を伴う高HDL血症の症例を発見し、HDLのコレステロールをVLDL等へ転送するコレステロールエステル転送蛋白(CETP)の欠損症を見出しました。CETP欠損症のリポ蛋白の組成、サイズや機能異常を明らかにするとともに、本症が集積する秋田大曲地方での調査の結果、CETP欠損症は動脈硬化を防御できないという世界に先駆けた斬新な概念を提唱し、HDL機能とコレステロール逆転送が重要であることを主張してきました。しかしながら、私共の警鐘にもかかわらず、HDLを増加させる目的でCETP阻害薬が開発中でしたが、3つのCETP阻害薬の開発失敗を契機に、HDL-Cの量よりもHDLの質と機能が重要であるという私共の主張が最近では世界の常識となっています。一方、CETPを増加させるプロブコールはHDL-Cを低下させますが、黄色腫を退縮させるのみならず、動脈硬化の発症を抑制する可能性を見出し、その証明のための前向き研究PROSPECTIVEや家族性高コレステロール血症患者のレジストリー研究FAMEを、日本動脈硬化学会員の先生方のご協力を得て現在行っています。
 我が国の動脈硬化研究は、遠藤 章博士によるスタチンの発見と山本 章博士らによる世界初の投与、渡辺嘉雄教授によるLDL受容体を欠損するWHHLウサギの発見とGoldstein & Brownラボでの北 徹教授による解析、CETP欠損症の発見など、世界中から注目されてきました。日本動脈硬化学会はその中心となる学会であり、欧米に比べて動脈硬化性疾患の頻度の少ない我が国でありながら、動脈硬化の研究と治療に関しては恐らく世界で最も会員数の多い学会と考えられます。本学会は従来病理学と脂質異常症を中心に発展して来た学会であり、LDLコレステロール(LDL-C)低下療法のエビデンスを集積するとともに、それに基づいたガイドラインの作成と普及において極めて大きな成果を挙げて来たことは申すまでもありません。
 さらには、LDL-Cとは別に、内臓脂肪が蓄積することにより動脈硬化危険因子が個人に集積し動脈硬化易発症性となるメタボリックシンドロームの概念の啓発とガイドラインの作成において、本学会は先導的な役割を果たしてきました。最近の実地医家のための「脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート」の作成においても、本学会は中心的役割を果たしてきました。最近のPCSK9阻害薬の開発でLDL-Cはある程度まで低下させることが可能となってきましたが、未だに多くの残余リスクが存在しており、特に我が国で増大するメタボリックシンドロームや糖尿病による大血管合併症のメカニズムを解明し、それを克服するための新たな治療法を開発することも本学会に求められております。今後、血管生物学を始めとした斬新な切り口での国際的研究を学会主導で振興させる必要があると考えています。そのためには、現在松澤佑次先生が会長をされている国際動脈硬化学会(IAS)とも連携し、更にはヨーロッパ動脈硬化学会(EAS)やアジア太平洋動脈硬化・血管疾患学会議(APSAVD)とも連携して、アジア地域の動脈硬化研究を我が国が中心となって活性化させる必要があり、アジアの次代を担う若手を教育・育成することも重要であります。本学会会員の若い力を結集し、動脈硬化に興味のある医師のみならず、看護師、栄養士、放射線技師、臨床検査技師等のメデイカルスタッフも沢山本学会に入会され、活発に学会活動できるような場を提供したいと考えております。このようにして学会の裾野を広くすることによって、動脈硬化にならないための社会への啓蒙活動を多方面から推進していくことが可能となります。今後とも皆様のご協力を賜りますよう、呉々も宜しくお願い申し上げます。

平成28年7月
山下 静也